執筆・監修
新潟県けんこう財団 新潟健診プラザ 診療部長
新潟大学名誉教授
高橋 益廣
はじめに
人間ドックや健康診断の結果、白血球が増えている、もしくは、減っていると言われることは珍しいことではありません。この場合の増減の参考としている値の範囲は、他の検査項目でも同じですが、「基準範囲」とよばれます。基準範囲は、健常者における検査値の標準的な範囲、実際には、健常者の検査値分布における中央の95%区間の範囲を用いています。白血球数の基準範囲は3,200- 8,500/μlと広く、すなわち個人によるばらつきが大きく、かつ正常人の5%はこの基準範囲に入らないことになります。そのうえ、白血球は1種類の細胞のみではなく、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球等、いろいろな分画の細胞が含まれていますので、白血球の増減を評価する場合は、その分画に分けて考える必要があります。また、白血球の異常には、数の増減の他、白血病などの白血球の質的な異常もあります。白血球の数的増減は、各白血球分画の増加症あるいは減少症として表現されます。各白血球の増減は、通常血液1μl中の絶対数でその増減を評価します。一方、質的異常には、白血球の機能異常を示す病気と、腫瘍化した異常白血球の増加を示す病気があります。
白血球増加症(成人では一般に10,000/μl以上)
白血球増加症とは白血球が基準値以上に増加する状態ですが、基準値は年齢、採血法、測定法などにより異なります。成人では一般に10,000/μl以上を白血球増加症としています。小児、ことに乳児期ではこれより多くなります。臨床的には白血球全体の数の他、どの白血球分画が増加しているかを知ることが重要です。最も頻度が高いのは好中球の増加ですが、以下増加する白血球の種類別に、その原因となる主な病気について解説します。
白血球増加症の主な原因
■好中球増加症(>7,000/μl)
① 細菌感染症:敗血症、肺炎、虫垂炎など
② 感染症以外の炎症:リウマチ熱など
③ 悪性腫瘍
④ 血液疾患:慢性骨髄増殖性疾患
(慢性骨髄性白血症、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、骨髄線維症)
⑤ 薬物投与後:副腎皮質ステロイド、アドレナリン
■好酸球増加症(>500/μl)
① アレルギー性疾患:気管支喘息、じんま疹など
② 寄生虫の寄生
③ 膠原病
④ 血液疾患:慢性骨髄性白血病
⑤ 好酸球増加症候群
■好塩基球増加症(>300/μl)
① 甲状腺機能低下症
② 血液疾患:慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、骨髄線維症
■単球増加症(>800/μl)
① 感染症:結核、亜急性心内膜炎
② 白血病:急性単球性白血病、慢性骨髄単球性白血病
■リンパ球増加症(>4,000/μl)
① ウイルス感染症:伝染性単核(球)症など
② 細菌感染症:百日咳
③ 慢性リンパ性白血病
1.好中球増加症
通常好中球数が7,000/μl以上の場合が好中球増加症とされています。この場合の好中球は主として成熟型(桿状核球と分葉核球) を指し、未熟型ことに骨髄芽球や前骨髄球の増加が主体を占める急性骨髄性白血病などはこの中に含めません。以下、好中球増加症の原因となる病気について解説します。
(1) 感染症などの炎症
感染症のうち、一般的には細菌性で好中球増加症を起こし、ウイルス性ではリンパ球増加症をきたします。細菌感染症の中でも一般に重症なほど好中球増加の程度が高く、また骨髄球や後骨髄球などの未熟好中球が血液中に出現するようになります。細菌に含まれる内毒素(エンドトキシン)などが、顆粒球- コロニー刺激因子(G - CSF)などの顆粒球系造血因子の産生を刺激し、顆粒球造血の亢進をきたすとともに、骨髄から末梢血への好中球の遊走を促進することが主な原因とされています。しかし結核、腸チフス、パラチフスなどは例外で、細菌感染症にもかかわらずむしろ好中球減少を示すことが多いとされています。
(2)悪性腫瘍
悪性腫瘍で病期が進むと好中球増加症がしばしばみられます。原因として組織の壊死、感染症の合併、腫瘍細胞からのG - CSF等の造血因子の産生などが考えられています。
(3)血液疾患
慢性骨髄性白血病(CML)、真性赤血球増加症、本態性血小板血症および原発性骨髄線維症は、合わせて慢性骨髄増殖性疾患と呼ばれることがあり、これらの病気でみられる好中球増加は腫瘍性増殖によるものと考えられています。いずれの病気も多能性あるいは骨髄系幹細胞のレベルにクローナルな異常(異常をきたした1個の造血幹細胞に由来する病気)が起こり、白血球、赤血球、血小板の3血球系統が異常を示すと考えられています。
(4)薬物
副腎皮質ステロイドは骨髄から末梢血への好中球の遊出、アドレナリンは末梢血好中球の辺縁プールから循環プールへの移動を刺激して好中球増加をきたします。
2.好酸球増加症
通常好酸球数は500/μl以上を増加と定義します。一般に気管支喘息などのアレルギー疾患でみられ、好酸球産生刺激因子(IL - 5など)が増加するためと考えられています。寄生虫感染、皮膚病、膠原病などでも好酸球増加を示すことがありますが、これらの場合でも一種のアレルギー反応が起こっているものと考えられています。慢性骨髄性白血病で絶対的にも相対的にも好酸球増加を示しますが、この場合は腫瘍性の顆粒球増殖の部分症として好酸球が増加します。原因不明の高度の好酸球増加(> 1,500/μl)が6か月以上続く場合は好酸球増加症候群と呼ばれています。
3.好塩基球増加症
慢性骨髄性白血病などの慢性骨髄増殖性疾患でしばしば好塩基球増加が認められます。その他の病気では、アレルギー疾患や甲状腺機能低下( 粘液水腫など) などで 軽度に増加することがあります。
4.単球増加症
単球数の上限について確定値はなく、500/μl以上から950/μl以上まで種々の値が使われています。単球増加症を示す感染症としては結核と亜急性心内膜炎がよく知られています。無顆粒球症(後述)の回復期や種々の好中球減少症で、相対的にも絶対的にも増加することがあります。単球の腫瘍である急性単球性白血病では、白血病化した異常な単球が著増します。慢性骨髄単球性白血病は未梢血の単球が1,000/μl以上と定義されており、骨髄異形成症候群の一型に含められています。
5.リンパ球増加症
成人では4,000/μl以上をリンパ球増加症としています。感染症のうちウイルス性のものではリンパ球増加症を示すことがしばしばみられます。この場合、正常のリンパ球とは形態の異なる異型リンパ球のみられることが多く、ことに伝染性単核球症で多数認められます。細菌性では、百日咳でみられることがあります。慢性リンパ性白血病では腫瘍性のリンパ球が増加します。
6.骨髄線維症
全身の骨髄に線維化が起こるとともに、脾臓や肝臓などの胎児期の造血組織で造血がみられる(髄外造血)病気を骨髄線維症とよびます。原因不明の原発性のものと、慢性骨髄増殖性疾患などに引き続いて起こる続発性のものとがあります。原発性骨髄線維症も慢性骨髄増殖性疾患の1つに数えられており、骨髄および骨髄外で作られる造血細胞、すなわち赤血球、顆粒球および血小板は腫瘍性とみなされています。しかし、線維化すなわち線維芽細胞の増加は腫瘍性ではなく、腫瘍化した造血細胞に対する反応性変化と考えられています。巨大な脾腫が従来から特徴的な所見とされています。血液検査では、貧血、白血球増加(時に減少)がみられ、血小板数は減少例から増加例まで認められます。血液中には、未熟型を含む各成熟段階の好中球系細胞が出現します。またしばしば赤芽球(赤血球の前駆細胞)もみられ、白血球と赤血球の両方の未熟型が血液中に出現することがしばしばです。赤血球形態では、涙の滴のような形をした涙滴赤血球がみられるのが特徴的です。骨髄の線維化のため、骨髄穿刺針で骨髄を吸引しても骨髄液がほとんど出てこないことが一般的です。骨髄生検により、高度の線維化が認められ、巨核球(血小板の前駆細胞)が増加していることがしばしばです。
7.伝染性単核球症
伝染性単核球症はEB (Epstein-Barr) ウイルスによる急性感染症で、発熱、全身のリンパ節腫脹、および、血液中の単核球(核の分葉を示す顆粒球に対し、円形もしくはくびれ状の核を有するリンパ球と単球を単核球とよぶ)の増加をきたします。この病気で血液中に増加している単核球はリンパ球で、単球様の異型を示すリンパ球もみられますが、単球ではありません。EBウイルス以外のウイルス(サイトメガロウイルスなど)やリケッチアなどでもまれながら似たような臨床像を呈することがあります。血液検査では、白血球数は発病初期には減少していることもありますが、約1週間後には1~2万/μl
に増加します。白血球の分画では、リンパ球系細胞が少なくとも50%、しばしば70%以上を占め、必ず異型リンパ球がみられるのが特徴です。異型リンパ球は発病2週間後に最大となり、少なくとも10%以上認められます。リンパ球は、Tリンパ球(直接異物を攻撃する細胞性免疫に関与)、Bリンパ球(抗体を産生して異物を排除する体液性免疫に関与)、NKリンパ球(非特異的に異物を攻撃する)等に分類されますが、伝染性単核球症で増加する異型リンパ球はTリンパ球で、ウイルスが感染したBリンパ球に対し反応性に増殖したものとされています。血小板減少をみることもあります。この病気はEBウイルス感染症ですので、各種の抗EBウイルス抗体( 抗EA抗体、抗VCA - IgM抗体) が陽性を示します。
▼後編の「白血球減少症」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
白血球が増える病気と減る病気(後編・白血球減少症)
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