鉄欠乏性貧血-赤血球を大福もちに例えて

執筆・監修


新潟県けんこう財団
新潟健診プラザ 診療部長
小池 正

 

立ちくらみといった症状のみから「貧血」と診断することはできません


立ちくらみを感じたとき「貧血を起こした」と訴える方がいますが、症状のみから「貧血」と診断することはできません。
「貧血」は血液検査で単位容積当たりの赤血球数またはヘモグロビン(血色素)が基準値未満の値であるものと定義されています。
赤血球数は1μL(マイクロリッター)あたりの個数で表されます。当健診施設での男性の基準値は400-539万/μL 女性の基準値360-489万/μLです。ヘモグロビンは通常1dLあたりのgで表されます。当施設での基準値は男性13.1-16.3g/dL、女性12.1-14.5g/dLです。
男女差があり、女性は男性に比べ少ないことがわかります。

 

貧血の原因で最も多いのは「鉄欠乏性貧血」


貧血はいろんな原因で起こりますが、最も多いのが鉄分の不足から起こる「鉄欠乏性貧血」です。
鉄欠乏性貧血かどうかの区別に赤血球1個あたりの平均の容積が正常より小さくなっているかどうかをみるのが手っ取り早いです。
一個一個の赤血球容積を平均化した値(平均赤血球容積)は、英語mean corpuscular volume の略であるMCVと記載されます。
健常人は概ね80-100fLです。fはフェムトと読みますが、μの1000分の1がナノ(n)、その1000分の1がピコ(p)、さらにその1000分の1がフェムト(f)です。当施設の検査結果にも記載されていますが、基準値は男性85.0-103.0fL、女性81.0-102.0fLです。同じヘモグロビン値8g/dLの貧血でも例えばMCVが70fL、90fL、120fLでは貧血の原因が異なります。鉄欠乏性貧血ではMCV80 fL未満となります。

 

鉄欠乏性貧血でMCVが小さくなる理由


なぜ鉄欠乏性貧血ではMCVが小さくなるのでしょうか。赤血球の構造から説明します。
赤血球の中身のほとんどがヘモグロビンです。ヘモグロビンはヘムとグロビンが合わさったものでグロビンというタンパク質にヘムという物質がくっついたものです。ヘムには鉄が組み込まれています。鉄が欠乏するとヘムが形成されず、従ってヘモグロビンも生成されなくなります。最終的に赤血球1個1個の内容物が減り容積が少なくなります。

赤血球を形態の似た大福もちに例えると、こしあんがヘモグロビンに相当します。大福もちはこしあんが少なくなると容積が減りますが、鉄欠乏性貧血の赤血球でも同様の現象がみられます。鉄欠乏性貧血でMCVが小さくなる理由がお分かりになったことと思います。
ヘモグロビンの低下があった場合はMCVの値に注目しましょう。


大福もち2個。右はこしあんを3分の2に減らしたもので、左に比べ平たくなっています。

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